ジャスティスヒーローVS悪の秘密結社の女幹部

NAPD小噺。塩崎みなせとジャスティスヒーローの邂逅

あたしの日課は、お気に入りのフリフリのゴスロリに身を纏って、精神世界内を優雅にお散歩することだ。
日々のストレスや部活の疲れも、可愛い衣服に袖を通して「あたしは今、世界で一番可愛い!」と自信を持てば、魔法みたいに足が軽くなって──心に羽が生えたみたいに、幸せな気持ちに包まれる。
つまりあたしにとって、この時間は生きていく上で欠かせない、いわば心のエステだ。

「おい!そこのオマエ!」

だけど、その日だけはひと味違うようだった。
突然男の人に声を掛けられて振り返ると、目の前には──"子供向け番組に出てきそうな仮面のヒーロー"が立っていた。
確かアレ、なんだっけ。クラスの本田さんが、「小さい弟と一緒に観てるんだけど、案外面白くって」みたいな話をしていたのは覚えているのだけど……。
そういう事じゃなくて、いま、なぜあたしは、そんな子供向けヒーローみたいな人に話しかけられているのだろう……?

「あ、あの、なにか……?」
頭の中にハテナマークを沢山浮かべながら、恐る恐ると声掛けに応じる。
「人々の目は欺けても、このジャスティスヒーローの目は欺けん!オマエ、悪の秘密結社の仲間だろう!」
「はぁ?」
思わず反射的に、ひどくかわいげのない声が漏れてしまった。
悪の、秘密結社の、仲間?????
この人は一体、唐突になにを言いだすのだろうか。
「え……悪の秘密結社って、何ですか?」
「誤魔化そうったってムダだぞ!フリフリを着てかわいこぶってる女の正体は悪の秘密結社の幹部だって決まってるんだ!そうに決まっている!というわけでNAPDの平和を守るためにオマエにはここで倒れてもらう!」
──この人は何を言ってるんだろう。それだけが頭によぎる。
あまりにも偏見が過ぎる、というより、フリフリのお洋服を見て悪の秘密結社の幹部って発想に至る事自体があまりにも理解しがたいのだけれど……。
そんな事を思いながら、面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ、と、そっとその場を立ち去ろうとしたその瞬間。
「逃げようったってそうはいかんッ!ジャスティス……キィーーーーーーーーーック!!!」
男は突如、あたしに向かって壮大なキックをかましてきた。
日頃の"陸上"の成果もあり、キックを避けることには成功したが、キックが直撃した地面からはド派手な砂煙と火花が舞い上がる。
「急に何するのよ!危ないじゃない!」
「悪の芽はここで摘ませて貰う!くらえ!ジャスティス・ソード!!!!!」
男の腕が突如としてメカメカしい剣に形を変えて、あたしに斬りかかる。
目の前をチカチカと眩しく光る残影がよぎったが、ギリギリのところでかわすことができた。
けれど直後、あたしの目には"絶対に許せない光景"が映っていた。

……お気に入りのお洋服が、ザックリと切り裂かれ、いくつかの装飾がぽとりと地面に落ちている。
さらに、くるくると巻いて最高にキュートなロングヘアーも、所々乱雑に切られ、その断片が宙を舞っていた。

──その瞬間、ぷつり、と頭の中で何かが切れた音がした、気がした。

「ほら見ろ!かわいこぶってるように見せかけてその身のこなし!幹部格でもなければそんな動きができるわけがない!ようやく本性を見せたなワルモノめ!さあ、覚悟し──────」

その後の事はあまりよく思い出せないし、あんまり思い出したくない気もする。
ただ目の前に、大きな足跡に踏みつぶされたそいつが倒れていて、あたしはその隙に立ち去ることにしたのだった。

「きょ、巨大化するなんて聞いてないぞ……恐るべし、幹部格……ガク」

それから数日。
あれ以来あの変なヒーローと出くわすこともなく、……いや、二度と出くわしたくはないのだけど……そんな感じで、無事に平穏を取り戻した。
そんな平穏な精神世界を謳歌しながら、あたしは毎日の楽しみ……桃川さんのお昼寝生放送をモニターに映し出す。

「もう許さねぇ!ぶっ殺してやる!!!」

───モニターには、巨大なガトリング砲を装備したメカに乗る桃川さんと、あの変なヒーローの激しいバトルが、繰り広げられていた。